移住経験者インタビュー
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大熊町在住 池田未帆さん

大熊町に来て、ワクワクが湧いてきた

「前職はパティシエです」。
横浜と仙台でパティシエとしてキャリアを積んできた未帆さんは、現在小学校跡をリノベーションした起業支援施設『大熊インキュベーションセンター』で、フロアスタッフを務めている。この施設を訪れ彼女に会うと、彼女の持つふんわりとした穏やかな空気感に癒される。今回は、彼女に私個人としてもずっと気になっていた大熊町への移住の経緯を伺った。

大熊町に来る前は仙台に住んでいて、地元の秋田県に帰ろうと悩んでいた時期でした」。
ちょうどそのころ未帆さんの友人が家族の都合で大熊町に移住しており、連絡を取り合う中で『大熊いいよ!』と彼女に勧めた。当時の大熊町の印象を聞いた。
「私にとって大熊町はニュースで聞いたことがあるくらいで、行ったこともない町でした。
2022年に初めて大熊町を訪れたときに様々な光景を目にし、『この町はこれから復興していくのか』と衝撃を受け、そのことをそれまで知らなかったことを恥ずかしくさえ感じました。
そして、それと同時に『私ならここで何ができるだろう』と自分の中にワクワクが湧いてきたことを覚えています」。

この地域は原子力災害を経験した、いまだ帰還困難区域が残る特殊な場所。ここが「特殊な場所」だということと、だからこそ「チャレンジできる場所」だという二つの認識を持った未帆さんの感覚に、同じ移住者として私もとても共感しました。

帰還困難区域を目の前にして生まれた、移住への決意

何かを選択するときには、いつもワクワクを優先してきた未帆さん。移住までの行動と決断の早さには、驚きだ。
「思い立ったが吉日、この「ふくしま12市町村移住サポーターガイドツアー」のことを知り、『大熊町のことをもっと知りたい』という気持ちで大熊町の移住体験ツアーに申し込みました。大熊町は特殊な歴史を持っている町。今現在、どんな人が住んでいて、どんな生活を送っているのかを知りたかったんです」。

ツアーでは「ネクサスファームおおくま」でイチゴの栽培に関する作業体験や、近隣の町や施設を見て回った。もちろんこういったツアーに参加すること自体が初めての経験だった。
「ツアーは、観光地を巡るよりも知識欲を刺激される内容で、とても興味深いものでした。これは、震災と災害の被害が甚大だった浜通り地域ならではの魅力でもあると思います」。

彼女大熊町への移住を決めたのは、このツアーの最中だった。
「ツアーのアテンド役である「移住サポーター」が、帰還困難区域のバリケードの前で『自分の自宅はこの中にある』と案内してくれました。自分の生まれ育った家に入れないって、どんな気持ちなんだろう。その話を聞いているときに『大熊町で何かやってみたい』から『大熊町で私も何かやろう』と大きく心が動きました。決意に変わった瞬間でした」。

あっという間にが広がった

ツアーに参加した後から、少しずつ大熊町での活動をスタート。 「大熊町交流ゾーンの「linkる大熊」にあるチャレンジショップのお手伝いをしていたとき、『家と仕事を探しています』と張り紙をしていたら、たくさんの方から様々なお仕事の話をいただきました。そのお手伝いを通して、たくさんの方に私の存在を知っていただけ、あっという間に輪が広がりました。ツアーに参加したことが、移住への入り口をグッと広げてくれたように思います」。
活動していく中で、知り合う人々はツアーの交流会で一度会ったことのある方も多かったが、彼女の人柄なのか、彼女を含めた20代の大熊町の女性たちがそこから一気に仲良くなっていった。

もともとはパティシエである彼女が、大熊町という新天地で様々な中から選んだ仕事が、大熊インキュベーションセンターのスタッフだった。どうしてパティシエが大熊インキュベーションセンターで働いているのだろうか。
「この場所は起業支援施設なので、チャレンジしたい人が日々集まってきています。そうした方々と触れ合うことで、自分の成長になるような学びを得られると思ったからです。もちろんパティシエとしての腕前も並行して磨いています。だから常に、「どうやったらお菓子作りに生かすことができるか」という視点を持って今の仕事にも取り組んでいます」。

大熊町のおかげで元気になった

前述した大熊町の女性たちの繋がりは、女性のコミュニティ・通称『熊女(くまじょ)』として対外的にも認知されるようになってきた。まだまだ女性の人口が多くはない双葉郡内で、熊女の存在は地域の活力としてとても頼もしく感じられる。未帆さんを含めたコミュニティの参加者は、それぞれが生活の中やSNS等で『双葉郡楽しい!』を発信していて、地域に活気を与えている。

「熊女のみんなはそれぞれ様々な活動をしており、お互いに刺激を与え合って、元気になれる、励みになる、とても良いコミュニティです。みんなでよく集まってご飯を食べたりしています。移住する前はいろいろと悩んでいた時期もありましたが、大熊町に来てからは心身ともに元気になりました」。
大熊町での生活について話をする未帆さんの笑顔から、ワクワクしながら暮らしを満喫していることが伝わってくる。
「私が暮らすシェアハウスはみんなが集う場所になっています。仕事仲間とゆっくり話をする場所であり、生活する家でもある。いろんな人が活用し、何をやりたいか話合う場にもなっています。都会と比べれば交通の便など不便な部分はあるかもしれませんが、それ自体もこの町で暮らすみんなで楽しんでいます」。


■大熊町へ移住を検討しているみなさんへ、未帆さんからメッセージ
「大熊町は、新たな移住者を温かく迎え入れてくれる、そんな町です。私もこのコミュニティをずっと大事に守っていきたいと思っています。
自分の興味関心やワクワクを大切に、まずは一歩踏み出してみてください。
ぜひ大熊町に一度来てみてください!」


◆編集後記◆

先に大熊町に移住してきたものとして、未帆ちゃんが「大熊町に来てから元気が出てきた」と言ってくれたことがすごくうれしかった。大好きな大熊町を、未帆ちゃんが興味を持ってくれて知ろうとしてくれていること、それもすごくうれしい!
パティシエとしても大きな展望を持っている未帆ちゃん。そんな未帆ちゃんに惹かれて大熊町に興味を持ってくれる人がこれからどんどん増えるんだろうな、と想像してさらにうれしくなってしまいました。

■インタビュアー / 佐藤亜紀さん

千葉県出身。大熊町在住。2014年に大熊町の復興支援員として町民のコミュニティ支援を担当した後、一般社団法人HAMADOORI13に転職し若者の起業支援事業「HAMADOORIフェニックスプロジェクト」を担当。
昨年、地域コーディネーターとしてHITOkumalab(ヒトクマラボ)の屋号で開業し活動中。


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